うま味の種類
<だしのうま味の種類>
「だし」に含まれる「うま味」成分には、昆布に含まれる代表的な「グルタミン酸」の他にも、煮出す食材によって、いくつか種類があります。
一番有名な「グルタミン酸」はアミノ酸の一種で、「うま味」成分であると同時に、私たちの体の中でも作られており、たんぱく質を構成したり、神経伝達物質として、体の維持のために必要不可欠の物質でもあります。植物性食材、動物性食材両方にまんべんなく含まれており、中でも昆布を筆頭にチーズ、緑茶、いわし、トマトや白菜などに多く含まれています。
また母乳にも、昆布に匹敵する量の「グルタミン酸」が含まれており、私たちが生まれた時から「うま味」に親しんでいることが判っています。
「グルタミン酸」と言えば「味の素」が有名ですが、これは「グルタミン酸」の抽出に成功した池田菊苗教授が工業的な製法を考案し、製品化したものです。
「味の素」、現在は「うま味調味料」と呼ばれていますが、以前は「化学調味料」と呼ばれ、その安全性が大きな問題となっていましたが、これは「グルタミン酸」自体の安全性というより、主にその製法が原因となったようです。1970年代(昭和45年ごろ)まで、「味の素」は石油由来原料で作らており、この石油に含まれる毒性が問題となったのです。
さらに1960年代に中華料理を食べた少数のアメリカ人が、頭痛、歯痛、顔面の紅潮、体の痺れなど「チャイニーズ・レストラン・シンドローム」と呼ばれる症状を訴えた問題で、中華料理に大量の「グルタミン酸」が使われていたことが原因ではないかと騒がれたり、有害性を主張する論文が発表されたことなどが重なり、「グルタミン酸」は体に悪いと言うイメージが定着してしまいました。
しかし現在では「グルタミン酸」の製法は、主にサトウキビもしくはトウモロコシやキャッサバを原料として、味噌や醤油と同じように、グルタミン酸生産菌と言う微生物の力を借りてつくる発酵法が主流となっていますし、「チャイニーズ・レストラン・シンドローム」の事例は「グルタミン酸」との関係性が否定されています。
ただし、塩や砂糖と同じように、大量に摂取し続ければ、やはり体に良くないことは否定できません。
気をつけなければならないのは、塩や砂糖などは、その量が過剰だと、「しょっぱ過ぎる」や「甘すぎる」と言ったように、味の濃さを感じることで過剰摂取に気づくことができるのですが、「うま味」はある程度の分量を超えると味覚がマヒしてしまい、過剰摂取に気づきにくいことが判っており、結果ついつい大量に使用、過剰摂取になりがちになってしまうことです。
そうなれば、やはり体にも影響が出る可能性が出てきますし、よく言われるように「グルタミン酸」の味ばかりが強調され、せっかくの素材のおいしさが判らなくなってしまいます。
だからこそ、調味料として「グルタミン酸」を使うのではなく、出来る限り食材から“煮出す”形で適量な“うま味”を使用することが健康のためにも望ましいわけです。
次に「グルタミン酸」についで有名な「うま味」成分が「イノシン酸」です。
「イノシン酸」はアミノ酸の一種ではなく、「核酸」とよばれる物質が変化したものです。
「核酸」は、すべての動物の細胞内に存在し,たんぱく質の合成や生物の傷ついた遺伝子を修復するなどの作用を持つ重要な物質で、体内でも合成されますが、食べものからの補給もできます。「核酸」は、かつお節やいわし、たい、さば、そして鶏肉、豚肉など魚や肉類に多く含まれますが、野菜類には含まれていません。
また、「イノシン酸」は生きている動物の中には存在せず、動物の死後、酵素の働きによって核酸が変化して作られます。それなのに日本人は「イノシン酸」が発見されるずっと以前から、かつお節という形で、魚の死後、熟成させて「イノシン酸」を最大限に引きだし、乾燥させることで腐敗を止めるという手法を開発していたのですから驚きです。
その他の「うま味」成分としては、きのこ類に含まれる「グアニル酸」があります。「グアニル酸」は「イノシン酸」と同じく「核酸」が変化して作られる成分ですので、生のものより、乾燥椎茸のように、細胞壁が壊れた状態のもののほうが、ずっと「グアニル酸」が多く含まれます。
また貝類に含まれる「コハク酸」や、野菜類や大豆製品に多く含まれる「アスパラギン酸」、魚介類・畜肉に多く含まれる「アデニル酸」なども「うま味」成分として認められており、こうした「うま味」成分を、複合的に煮出すことにより「だし」の「おいしさ」がつくられているわけです。