だしと健康

<だしと健康>

 「だし」が美味しいことは、もう皆さん知っていますが、身体にとってはどうなんでしょう?
 「だし」の「うま味」成分の代表である「グルタミン酸」は、三大栄養素の一つであるアミノ酸です。アミノ酸は、身体にとって不可欠な成分であり、かつ脂肪や糖に比べると低カロリーな栄養素でもあります。

 「うま味」は、舌の感じることのできる5つの味覚成分の一つですが、そもそもこの味覚成分は人間の健康と大きく関わっているのです。味覚は、人間が生きていくために必要な食事を、安全かつ効率的にとるために備わっている本能的な能力の一つです。

 人間の舌には味蕾(みらい)と呼ばれる器官があり、それが基本味である甘味(かんみ)・酸味(さんみ)・塩味(えんみ)・苦味(にがみ)・うま味の成分を感じ、それが脳に伝わり、脳が「甘い」とか「酸っぱい」、またはそれらの複合的なものとして「こくがある」とか「味に広がりがある」と言う風に認識をするわけです。

 それによって人間の脳は本能的に、「甘いもの」はエネルギー源、「酸っぱいもの」は腐敗のシグナル、「塩辛いもの」は体液バランスに必要なミネラルの供給源、「苦いもの」は毒物への警告、「うま味の強いもの」は体に不可欠なアミノ酸や核酸の供給源というように、必要な栄養素を判別するようになっているわけです。

 また、運動などをして汗をかくと、塩辛いものが食べたくなったり、疲れてくると甘いものが食べたくなり、いつもよりもおいしく感じるのも、脳の本能的な働きです。つまり、その時の環境や健康状態などの変化によって、味覚の感じ方が変化し、必要な食べ物を本能的に求めるように調整されています。


しかしながら、誰しも決して本能に組み込まれたとおりに食事を選んでいるかというと、そうではありませんね。非常に酸味の強いものや、苦味のある食べ物も人によっては美味しく食べることができます。

 これは後天的に、安全であることを知ることで、コーヒーや苦みのある野菜などに「おいしさ」を感じるようになったり、前もって「おいしい」とか「体に良い」という情報を得ることで、より「おいしさ」を感じられるようになることが判っています。

 小さい頃から頻繁に食べてきたもの、いわゆる「おふくろの味」により「おいしさ」を感じたり、地域による味の好みの違いも、こうした学習によるものですし、食べる前に、口コミや情報誌などによって料理への期待を膨らますと、脳内に快感を増やすドーパミンが分泌され、「おいしさ」を増幅することもわかっています。


ただ、飽食の時代と呼ばれる現代、こうした味覚の機能がアダとなって健康にマイナスの影響を与えてる状況が生まれています。

 本来、「おいしい」という感覚は、必要な栄養素をより積極的に取り込むための機能なのですが、食べるものが豊富に手に入る現代では、栄養的に過剰となっているのに食べ続けてしまったり、またはジャンクフードのように必要な栄養素が含まれていないにも関わらず、その味覚のために「おいしさ」を感じ、食べ続けてしまうといったことが起こります。

 その結果待っているのが、肥満や栄養失調です。ご存じのとおり、多くの生活習慣病は肥満とともに起こります。さらに最近では、太っているのに栄養が足りず脳出血、貧血、感染症、転倒、骨折などが起こりやすくなる新型栄養失調症の人が増加しているとの報告もあり、大きな社会問題となっています。

 では、この「おいしさ」の誘惑に打ち勝つにはどうしたら良いのでしょう。医者に聞けば、解決方法は明確です。それは、適度な運動とバランス良い食生活の実践です。言うのは簡単ですが、本当に難しいですよね。

 動物は本来、狩りなど必要な時のために出来る限り無駄なエネルギーを使わないように本能的に運動を嫌がるようにできている上に、「おいしさ」という快楽の誘惑に打ち勝たなければならないわけです。実際、肥満大国のアメリカはすでに40年以上この問題に取り組んでいますが、未だ解決したとは言い難い状況です。

 そんなアメリカがもっとも注目している食事の一つが実は和食なんです。

 和食は、全般に低カロリーで栄養のバランスも良く、しかもおいしい。食事のすべてを和食にはなかなかできませんが、少しでも食生活に和食を加えることで、全体量として、高カロリーの脂肪と糖の摂取を減らすことが出来ます

 特に小さいころから「だし」を使った料理を食べ、日本の伝統的な「うま味」を経験することで、脂肪と糖一辺倒の食事に走ってしまうのを、ある程度防止できると言われています。

 日本人が、年を取って和食など味のあっさりしたものが好きになるのは、実は幼少期の食事体験のおかげで、身体が本能的に低カロリーの和食などを好むように調整してくれているからだそうです。ですので欧米人など、「だし」の味を知らない人たちは年をとっても薄味好みにはならず、ただ食事の量が減るだけなのだそうです。

 今後の日本人の健康を作っていくためにも、積極的に「だし」を食生活に取り入れていきたいですね。